みよ通信

●ゅ●通信じゃないです。

CPのお話 ~なぜ“しずかす”なのか~

こんにちは。虹3rdがあまりにも良すぎて、虹ヶ咲に関するブログを書きたくなったため、書く事にしました。TVアニメ2期、おめでとう。マジでうれしい。ちなみに明日、NHK Eテレで19:00からしずく回の再放送です。

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...今回のテーマは、”しずかす”、つまり桜坂しずくちゃん×中須かすみちゃん のCPについて。
”しずかす”である理由について書いて行こうと思います。
ラブライブ!ではCPが問題になることが多い(と思う)。だが、なぜそのCPが成り立つか、なぜ好きか、について今回論じるような視点からの考察はほとんどない(と信じたい)。そのため、”しずかす”がなぜCPとして成立しているか論じていきたい。

要旨


なぜ”しずかす”なのか、それは2人の性格が対極に位置しつつも、両者とも”自分に自信がないこと”が根底に存在しているという共通点があるから。共に自己愛の問題を抱えているからだ。

桜坂しずくについて


桜坂しずくはどんな子なのか? どういう性格をしているのか。それが垣間見える文章や発言を以下に抜粋した。

・しっかり者の優等生 (公式サイト)

・私ね、演じている時が一番堂々としていられるの。誰の目も気にならないし。自分が、桜坂しずくだってことを忘れられるの
・誰かに変なのって顔されるたび、嫌われたらどうしようって。そのうち、他の事でも人から違うなって思われる事が怖くなって、だから、演技を始めたの。みんなに好かれる、良い子のふりを
・私、やっぱり自分をさらけ出せない。
・表現なんてできない。嫌われるのが怖いよ (TVアニメ1期8話)

つまり、上記から読み取れる桜坂しずくの人物像は

・人から嫌われるのを恐れ、皆から好かれるために”良い子”の"演技"をして”ほんとうの自分”を隠している女の子
と言えるだろう。

中須かすみについて


一方、中須かすみはどんな子なのか? どういう性格をしているのか。それが垣間見える文章や発言を以下に抜粋した。

・そりゃあ確かにかすみんはかわいいに決まってますけど~
・人がいっぱいいた方が、かわいいかすみんが引き立つからです!
・どんなに素敵な同好会でも、世界で一番かわいいのはかすみんですからね! (TVアニメ1期2話)

つまり、上記から読み取れる中須かすみの人物像は

・自分のことをかわいいと信じている女の子

と言えるだろう(実際かわいい)

桜坂しずくと中須かすみについて


さて、この2人の人物像を以下に並べてみる。

桜坂しずく:人から嫌われるのを恐れ、皆から好かれるために”良い子”の"演技"をして”ほんとうの自分”を隠している女の子
中須かすみ:自分のことをかわいいと信じている女の子

...共通点なんてある?? と思うかもしれないがその感覚はある程度正しいと思われる。
実際、この2人、性格がまるで対照的なのだ。つまり、自分のことが嫌いな桜坂しずくー自分のことが好きな中須かすみ、というように、両者はむしろ対照的な性格をしている。対極に位置しているのだ。
なら、なぜこの2人は作中でも絡みが明らかに多く、”しずかす”というCP名までついているのか。
勿論、性格が正反対の相手を好きになるという理屈もあるだろう。相手の持っていない良さに憧れ、相手の欠点を補い合える(相補性)からだ。
しかし、さらに一歩踏み込んで答えを出すならば、2人は似ているからだ、という答えを持ち出せる。
これは、自己愛という言葉を持ち出せばある程度説明ができる。

自己愛について


自己愛とは、心理学で用いられる用語である。例えば、かの有名なフロイトは、自己愛について、本来外へと向けるべきリビドーを自己へと向けている状態としてネガティブに捉えている.......となると話がかなり難しくなるため、ここでは自己愛の事を以下のように捉えてほしいい。つまり、自己愛とは、”自分自身へと向ける愛”であり、”自分自身を愛すること”である。

自己愛 はネガティヴな意味で用いられる事が多い印象だが、自己愛自体は悪いものではない。”自分自身を愛すること”は、自分を大切にする、という事でもあり、生きていくうえで必要不可欠なものである。

とはいえ、何事も行き過ぎは良くない。つまり、自分を好きすぎる/嫌いすぎると良くない。なぜなら、自分を好きすぎる人は、自分を優先しすぎるが故に相手を蔑ろにしこき下ろす事が危惧されるし、自分を嫌いすぎると、(本来そうすべきではない場面でも)自分よりも相手を優先させてしまうからだ。
...難しいので、極端な例で分かりやすく考える。つまり、自己愛性パーソナリティ障害という言葉を持ち出してみよう。

自己愛性パーソナリティ障害について


例えば、皆の周りにこんな人はいないだろうか。
・自慢ばかりする人
・自分を特別な存在だと思っている人
・自分の考えを理解できない人を見下す人

簡単に言えば、「俺は天才!お前らはバカ!」みたいな態度を取る自己中をイメージしてほしい。

専門的な話になるが、自己愛性パーソナリティ障害*1は、大きく分けて2つに分類される。
1つ目は、誇大型であり、先述したような人を指す。特徴を一言で挙げるならば、所謂ナルシシストという事だ。
2つ目は、(あまり知られていないが)過敏型である。過敏型の人は、他者から嫌われる事を極端に恐れ、外界へ対する対抗策として仮面や鎧をつける。 アスパーは、本来の自分との間にある疎外、自己疎外にも着目している。つまり、ペルソナ*2によって適応してきた分だけ、過敏型の人の本来の自分は遠くに追われ封印されてしまったものの、ほんとうの自分は見捨てられた内なる子どもとして、ひそかに生きながらえていると述べている。



ここまで論じて何となく見えてきたかもしれない。

つまり、どちらかというと、中須かすみは誇大型、桜坂しずくは過敏型に分類されるのではないか、と主張したい。
ただし、ここで1点留意点がある。それは、決して中須かすみや桜坂しずくが自己愛性パーソナリティ障害の診断を受けるだろうという事を主張しているわけではないという事だ。あくまでも、この上なく極端な例で両者を対比しやすくするために持ち出したのが自己愛性パーソナリティ障害である。

桜坂しずくと中須かすみの対比


中須かすみー誇大型 
 ・自分のことをかわいいと信じている女の子

中須かすみちゃん、誇大型か??という意見もあるだろうが、中須かすみちゃんが所謂ナルシシストとして見做されるのもまあ分かるな...って方は多いのではないだろうか。余談だが、無敵級*ビリーバーのPVには鏡に映った中須かすみの姿が登場することによっても示唆される(詳しくはギリシャ神話を調べてください)。

桜坂しずくー過敏型 
 ・人から嫌われるのを恐れ、皆から好かれるために”良い子”の"演技"をして”ほんとうの自分”を隠している女の子

こちらは非常に分かりやすいのではないだろうか。
ちなみに、桜坂しずくー過敏型 を示唆するものは他にもある。例えば、① "あなたの理想のヒロイン(TVアニメ1期8話)"、は、相手の嗜好に合わせ、あなた(≒皆)から好かれたいと捉えられなくもない。②1期8話で表れた所謂”黒しずく”は仮面=ペルソナをつけている。などが挙げられる。

...またまた余談だが、桜坂しずくみたいな人、周りにいそうだな~と思うかもしれないが、日本人には過敏型が多い印象がある。日本には、「出る杭は打たれる」ように同質性が重視される、周囲の反応を気にして本来の自分を出せない、個よりも場を尊重しがち、つまり付和雷同的な傾向があるように思える。最近、やたら書店で自己肯定感やら周りを気にしない方法やらの本が出ているが、これらの存在も日本人に過敏型が多い事を示唆しているようにも見える。
一方、中須かすみのような人は周りにあまりいないのではないか。*3

桜坂しずくと中須かすみの共通点


さて、核心へと足を踏み入れてみる。つまり、なぜ、中須かすみと桜坂しずくは”似ている”と言えるのだろうか。これも、自己愛性パーソナリティ障害という極端な例を持ち出すと分かりやすい。

誇大型ー過敏型、この2タイプは両極に位置しているように見える。しかし、双方の根底には、自信のなさ、自分を好きになれないこと、傷ついた心、劣等感があるのだ。
つまり、誇大型の人のこうした態度は、自信のなさや劣等感を覆い隠すハリボテのようなものである。自分は凄いんだぞ!と言いつつ本当は自分に自信がない...みたいな人は探せば割といる気がする。
一方で、過敏型の人はそのまんまである。過敏型の人の根底には皆から好かれたい、嫌われたくないといった想いがあり、故に強烈なペルソナによって周囲に過剰に適応する形で存在する*4。相手に嫌われたくないから、相手の無理な要求にも応えてしまうし良い子ちゃんになってしまうのだ。

これは、中須かすみと桜坂しずくにも当てはまる。

桜坂しずくについては説明不要であろう。1期8話を見れば。

中須かすみについては、

一人ぼっち歩く夜 ため息を繰り返してる
キラキラ イルミネーション
まぶしくってあのコみたい
「努力しても追いつけないのかな」(無敵級*ビリーバー)

しず子、かすみんの前髪、変じゃないですか?(1期13話)

などから示唆される。ちょっと説明に苦しいものがあるが、これは1期8話における”しずかす”のやり取りを見るに、中須かすみが桜坂しずくよりも、自分を好きで自信を持っていたことがストーリーを進める(桜坂しずくが立ち直る)ことに必要だった故かもしれない。2期で中須かすみがめちゃくちゃ落ち込んで今度は桜坂しずくが助ける、みたいな展開、ないですか?

まとめ


このように、2人は対照的かつ似た者同士でもある、という事が、”しずかす”がオタクの頭の中だけではなく実際に成り立つような描写が描かれる理由だと考えられる。

これを踏まえると、1期8話の”しずかす”は特別に深いやり取りであったとも読み取れる。中須かすみ→桜坂しずくの台詞は、同じ辛さを抱えるからこそ、真に桜坂しずくの胸に刺さったのかもしれない...と想像(妄想)を広げる事ができるのだ。もしかしたら、中須かすみが桜坂しずくへ言い放った台詞は、中須かすみ自身にも(言い聞かせる形で)突き刺さっていたかもしれない。他の誰でもなく、中須かすみだったからこそ、桜坂しずくの仮面を取る事ができたのかもしれない。

最後に


....ちなみに、1期8話の中須かすみの台詞は、割とその通りである。過敏型の人は、嫌われたくない、皆から好かれたいという想いを持っているが、現実それは不可能である。皆から嫌われる人なんていない。その事実を受け入れ、嫌われないためにつけている不自由な仮面、本当の自分を隠している仮面をはがす事が一般的に必要である。しかし、長い間強固に貼りついていた仮面はそう簡単に剝がせない。
仮面が取れる、つまり雪解けのためには、"本当の自分を見せてもこの人は私を嫌わないだろう、ありのままの自分も受け入れてくれるだろう" と確信できる相手の存在が助けになる。それはつまり、桜坂しずくにとっては中須かすみという存在であろう。

その結果、1期8話の最後、桜坂しずくは

ほんとうの私を、見てください

と言えるようになったのかもしれない。

*1:精神障害の診断には操作的診断基準といったものが用いられる。簡単に言えば、以下の内容(一般に、その精神障害に顕著に表れる内容)に〇つ以上当てはまったら診断される というものである。 自己愛性パーソナリティ障害の診断基準は、以下のうち5つ以上当てはまる場合に診断されうる。 ①自分が重要であるという誇大な感覚(例:業績や才能を誇張する、十分な業績がないにもかかわらず優れていると認められることを期待する) ②限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。 ③自分が”特別”であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人達(または団体)だけが理解しうる、または関係があるべきだ、と信じている。 ④過度な賞美を求める。 ⑤特権意識(つまり、特別有利な取り計らい、または自分が期待すれば相手が自動的に従うことを理由もなく期待する) ⑥対人関係で相手を不当に利用する(すなわち、自分自身の目的を達成するために他人を利用する)。 ⑦共感の欠如:他人の気持ちおよび欲求を認識しようとしない、またはそれに気づこうとしない。 ⑧しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む。 ⑨寛大で傲慢な行動、または態度

*2:周りの人へ見せている自分のこと。オタクの前で見せる自分と、上司の前で見せる自分は異なると思われるが、相手や状況に応じて使い分けられる自分のことをペルソナと呼ぶ。

*3:またまた余談かつ専門的な話になるが、パーソナリティ障害にはいくつか類型があるものの、全般的に、①その人の属する文化からの偏りが重視される事、②それらの様式が長期間に渡って維持されている事、③他疾患の要因が否定される事、の3つが特徴的である。日本人の控えめを良しとする文化の場合、中須かすみのような存在は偏っていると判断されそうであり、特異的に見られそうでもある。

*4:ちなみに、セラピーの場における過敏型の人は、周囲の人への接し方と同じようにセラピストに接するため、”良いクライエント”になってしまう。セラピストの思う通りに変化してくれるのだが、それは必ずしも良い事ではなく、むしろクライエントの纏う鎧によって根本的な原因に触れられていないため、セラピストは安心してはいけない。